作者 コギンザシスト 三つ豆 工藤夕子さん
わたしの仕事は、津軽の伝統工芸「こぎん刺し」の商品を作ることです。
「こぎん刺し」というのは、300年ほど前、青森県津軽地方に暮らす農家の女性たちが生み出した、厚い布を作る技法です。
その技法が生まれたのは、ものを買うのではなく、すべて手作りしていた時代でした。そのころ、農民は贅沢をしてはいけないという「倹約令」のために麻の布で作ったものしか着ることがゆるされていませんでした。
そもそも津軽地方では綿が育たなかったため、麻という植物からまず糸を作り、それを織ることで布ができます。たいせつな布を長持ちさせるために、虫よけ効果のある藍染もほどこします。こうしてやっと完成した布に唯一使うことをゆるされた綿の白い糸を通して布目のすき間を埋めることで、厚みを持たせ柔らかくする方法を考えだしました。
布を作るまでもすごくたいへんなのに、その綿の糸を通すときに、ただ通すのではなくいろんな模様を考えながら作っていったところがすごいところで、わたしはその模様の美しさと津軽の女性のたくましさに感動してこの仕事をはじめました。
わたしは昔ながらの素材と同じく、麻布に綿の糸でこぎん刺しをし、それをミシンで縫ったり金具をとりつけてアクセサリーにしたりして商品を作っています。でも、商品を作るだけでおわりではありません。作る以外にもやる仕事はたくさんあります。
パッケージを考えたり、取り扱いの注意についてお知らせも入れて、使う人が長くたいせつに使ってくれるように、そして困った時には連絡ができるようにしています。お客さまや商品を取り扱っているお店の人とのやりとりもたいせつな仕事です。
一人で全部を作るのはたいへんなので、いろいろなものづくりをしている人とコラボレーションをして商品を作ったりもします。その道のプロとコラボするとより良いものができるし、自分の想像を超えたものができたりするのでとてもおもしろいです。
わたしは自分のお店を持っていないので、いろいろなお店で販売してもらっています。雑貨屋さん、美術館のミュージアムショップ、ホテルなどの観光施設です。取り扱ってもらっているお店は、店員さんが商品の説明をちゃんとしてくれるところばかりなので、安心しておねがいしています。
時々イベントに出店して販売することもあります。イベントは直接お客さまと話せる機会なのでとても楽しく、新商品のアイディアをいただくこともあるので、とてもだいじな時間です。
作って販売する以外には、こぎん刺し教室を開催しています。こぎん刺しをやってみたい人や、好きなものが同じ人と交流したい人などが参加しています。こぎん刺しに関係するお話もあれば、食べものや観光地の話題だったり、いろいろな話が飛び交い、わたしにも仲間ができたようで楽しい時間になっています。
今はこの仕事だけで生活をしていますが、最初はいくつかの仕事を掛け持ちしていました。同時に4種類の仕事をしていた時もありました。
今思えば子育てもしながらよくやっていたなぁと思いますが、すべて好きな仕事だったので苦ではありませんでしたし、さまざまな仕事をした経験が今はとても役にたっています。
たとえば、飲食店での接客は相手が求めていることを察することを学びましたし、販売の仕事では商品の魅力を伝えることやお客さまとの距離感も学びました。教育の仕事では人に教えるためには自分も学び続けることのたいせつさに気づきました。
いろいろな仕事をしているときは、いったい自分は何者なのかと思っていた時もありましたが、少しずつ自分が一番やりたいことに絞られてきて、めでたく「こぎん刺しを作る人」になりました。
もしかしたこれからまた進化するかもしれませんが、今の仕事が絶対に役立つことはまちがいないので、これからの人生も好きなことを仕事にして楽しもうと思っています。
- 藍染
- 藍染は日本の伝統的な染めものの技法の一つです。
染料には、藍という植物を用います。
藍の葉は、古くから、消臭、抗菌、防虫などの薬効があるとされています。